【視察報告】就労選択支援事業モデル事業所視察・報告に参加して

令和7年1月7日、熊本市内で就労選択支援モデル事業として参加した合同会社HumanToHumanアス・トライ就労移行支援事業へ訪問し、代表である山田浩三氏より報告内容を聞かせていただきました。


今回の視察は、ワ-ク・ライフサポートたくと(直方市)主任相談支援専門員の舟津氏の企画にお声かけいただいたもので、福岡県内で障害者就業・生活支援センターを受託している法人の統括施設長の方と一緒に参加させていただきました。

舟津氏は、もともと就労支援の現場に長く従事され、現在は直鞍地区障がい者等地域自立支援協議会 相談支援部会の部会長を務めるなど地域での中核的な役割を担われている方です。地域だけに留まらず相談支援従事者研修の講師や広報誌作成など精力的に活動され、ノーマ3名ともが何かしらのご縁があり、様々な場面でお世話になっています。主任相談支援専門員研修の同期であったり、就労支援の大先輩であったり、相談支援従事者研修でのアドバイザーであったり。そのバランス感覚や鋭い視点、豊かな表現力など、わたしたちが尊敬している支援者のお一方でもあります。

視察そのものはもちろんですが往復の道中も勉強になる時間で、就労支援の経過を知る方、や現状を知る方々とご一緒させていただけたことは貴重な機会となりました。あらためてお礼申し上げます。



モデル事業報告書
(リンクはページ下部でご紹介しています)


さて、この就労選択支援モデル事業に関しては正式名称は「就労の開始・継続段階の支援における地域連携の実践に関するモデル事業一式」と言い、コンサルティング会社を介して日本では滋賀県4事業所、島根県松江市1事業所、熊本県4事業所が参加されていました。



<調査目的>

モデル事業所の支援を受けた利用者が、就労アセスメントや多機関連携会議を経て、就労に対する意識にどのように変化があったのか、モデル地域内の各就労支援期間が、就労アセスメントや多機関連携によるケース会議の導入・運用についてどのように実施したのかを把握するために実施されています。 

実際にアス・トライでは対象者として特別支援学校に在籍する生徒(高等部3年生)、就労アセスメント希望者の3名に対して実施されていました。


<受入期間>

2023年10月〜12月の間の平日の2週間を利用し10日間でアセスメントを実施されています。多機関連携会議の参加者としては本人、家族、相談支援専門員、特別支援学校の先生、就労移行支援事業所の支援者で実施したとのことでした。


 <実施内容>

実際に普段から使用されているBWAP2Becker Work Adjustment Profile2)などのアセスメントシートを使用し総合的職場適応能力等を評価することや、ボールペン組み立てなどの模擬作業の時系列データを分析し本人の強みや可能性を評価すること、OHBYカードを使用することで比較的能力が低い方であっても自分が望む職業の選択を可能にするなどの工夫がなされていました。

その中での気づきとして人と接することが苦手と言っていた方が、実際にはコーヒーショップの店員やハンバーガー店マネージャー、ホームヘルパーなど他者と交流する職業を本質的に選択したことへの意外性に気づくことができたともお伝えくださいました。また、実際に本人たちが理解しやすいようにスライドを作成して就労継続支援A型、B型の説明や障害者雇用を実践している企業等を情報誌などで情報提供しながら一般就労への進み方の説明なども行われていました。さらにはWAM NETよりもより詳細な情報が記載されているNPO法人が立ち上げた情報収集ツールを使用して地域のフォーマルな社会資源の情報提供等もなされていました。

また、最終的に就労アセスとして使用するアセスメントシートに関しては(JEED)を使用していました。JEEDの使用感としては総合協同所見としてストレングスと課題等の記載欄、必要な支援と配慮の記載欄があることで就労アセス後の多機関連携会議において明確な内容がお伝えすることができることは良かったと言われてありました。

 

モデル事業報告書より


<就労選択支援事業としての課題>

・就労系障害福祉サービスの情報提供では、スライドや写真等を作成し説明はしたが、移行支援、A型、B型の抽象的な概念しか伝えることができなかった、

・地域にある障害福祉サービス事業所(就労移行支援、就労継続支援A型、B型)の内容や特徴など障害者就業・生活支援センターのように持ち合わせていないので、対象者本人が自己選択するだけのデータ共有について地域の課題に感じた、

・WAM NETの記載情報だけではご本人が自ら選び意思決定するには内容が薄く感じる、知的障がいの方への聞き取りは質問の意図を把握することが難しく、作業訓練を通してアセスメントを行ったり、ご家族や支援学校の先生に聞き取りする時間が本人よりも長かった、

・多機関連携というが、互いの都合が合わないと難しい。現時点でも都合を合わせるのが難しいが、他事業所のケース会議のために多機関が一堂に会することは困難ではないか?

等の課題が抽出されたようでした。

 

また、山田さんが個人的に感じた感想として

就労支援のためのアセスメントシート(JEEDは精神障がい、発達障がいの方に対しては有効であるが知的障がいの方は理解することが困難であったり時間を要したりするのでアセスメント力を向上させていくことや地域共通のアセスメントシートの開発も必要であること、

アセスメントで得られたデータを多機関に共有できるシステムや多機関連携会議に参加していただくためにスケジュール調整の方法や日頃から情報共有するための方法の必要性、実施主体によってその強みや弱みが出てくるのではないかということ、

ご本人がより良く就労選択できるための情報収集とその提供のために情報提供のためのコンテンツ制作や社会資源をもっと知ることができる手がかりを探していく必要があること、

またこれらの課題を踏まえ令和7年10月までに準備をしていくことを考えると時間がないと感じているとおっしゃっていました。

 


モデル事業報告書より


また最後に就労選択支援について以下のことをおっしゃっていました。 

    就労選択支援の意義や目的が今後、社会認知されていくためにも現在のような就労Bアセスメントからの看板の掛け替えにならないようにすること。

    資質や知識・経験、アセスメント力、調整力、情報収集力などの就労選択支援員個人の力量が大きく試されるサービスになるだろう。

    地域の就労選択支援事業所としての責任は重く、事業所としての透明性、公平性が必要になってくること。

    全国各地域のローカライズは必要で個人や組織の特徴・強みを活かし、地域単位で一緒に考え準備する必要性がある。

 

 

そして、熊本市内では自立支援協議会内における就労支援部会において障害者就業・生活支援センターが事務局となり就労選択支援事業の準備のためのプロジェクトチームがすでに発足されていると聞き、私自身も非常に焦りと危機感を感じました。

 


<視察を終えて>

実際に視察に行き山田さんの報告を聞いての感想ですが、私たちの地域の自立支援協議会においては就労支援部会がございません。熊本市のように就労支援部会の事務局を障害者就業・生活支援センターが就労支援の基幹的役割を担い運営させていくことは理想だと改めて感じました。やはり他県を知ることで自分達の地域の状況や課題を振り返ることができた良い機会となりました。

私が感じた点でいくつか述べさせていただくと、まず当たり前ですが就労選択支援事業所には就労選択支援事業のサービスの内容を明確に理解した上で取り組んでいただく必要があること。山田さんが言われていたように今までの就労アセスと同様のものではいけないと感じますし、地域全体が同様の認識を持っておくことが望ましいと感じました。

次にアセスメントを取る人の価値基準で大いに方向性が変化してくる可能性があるため、地域においてローカライズされた共通のアセスメントシートを使用することや、共通のツールを使用してのアセスメントを行うことが可能になればと考えました。

一緒に視察した方との話の中では、それを踏まえどの事業所の就労選択支援員が行っても一定の評価が出やすくなるように共通課題として同じ課題を行うことと、その事業所の特色として例えばA事業所においてはPC等の事務的なアセスメントが取れる、B事業所ではカフェを使用して調理等の専門的なアセスメントが取れるなどの専門課題があることも良いのかなというような話もしていました。

また、就労選択支援員の継続的な実務に対するフォロー体制とスーパーバイズは必要になると思いました。かなり専門的な視点でアセスメントを取ることになりますし、そのエビデンスを専門職たちに伝えることに関してかなり疲弊する状況が生まれてくると予想できるからです。

就労選択支援事業を行おうとする事業所に対して、障害者就業・生活支援センターを含む専門的な機関によるバックアップ機能やその経験や実務から裏打ちされたノウハウを伝えることが可能になれば地域の必要な資源として残っていくのではないかと考えましたし、育てていく必要もあると思いました。就労選択支援を行うために必要な研修内容が未だ明確でないため何とも言い難いところではありますが、研修終了後も継続的なスキルアップは必要であり地域の信用できる資源として育てていく必要性があると思いました。

なるべく早い段階で行政、特別支援学校、就労支援機関、HW、職業センター、ナカポツなどの関係する機関との協議を開催し、継続的な検討会を重ねていく必要があると思いました。

何も出ていないから何も言えないということはわかっていますが、危機的状況なのは目に見えているのでそれに向けたポジティブな対話ができることと、各地域において自立支援協議会を中心とした就労支援部会等でその準備を進めていく必要性があること、この危機感と焦りを共有するところから始めるべきかなと思いました。


特に令和7年10月から始まる在学生のアセスメントに関しては柔軟なスタートと令和8年を見越して1学年時からの選択支援が可能となるような体制づくりを学校側と早期に構築していくことも重要かなと思いました。また、先生方達と話をする中で地域における就労選択支援の平均実利用人数はわかると思いますし、地域で受け止めれるかの抽出を行いながら、地域の事業所に依頼をかけていくなどの必要性も出てくるのかなと感じました。


相談支援専門員としてはアセス終了後に出てくる会議の際の生活に伴うアセスメントに関しては家族や学校よりもより専門的な見解とエビデンスを持って伝える役割が求められてくると思いました。幼少期から関わっている相談支援専門員であれば定期的なモニタリングの中でその課題に対する評価をしながらも成長を確認してきているわけですし、具体的な提示や見立てが可能だと思われるからです。また当たり前ですが定期的にアセスメントシートが書き換えられていないとその時の本人の生活状況等を伝えることは困難になりますし、必然的に就労に必要な幼少期からのアプローチや見立てができることが求められてくるのではないかと感じました。

就労選択支援事業所は出した結果に対して「なぜそのような見解に至ったか」明確な根拠を持って説明する義務が生じてきます。相談支援専門員はそれを受け本人自身の明確な就労選択となっているか、選択肢としての就労系の福祉サービスの内容や一般就労への進め方、その選択をすることでどんな支援が受けれるのか、そのメリットやデメリットを本人に合わせた内容で伝えることができているか、意思決定のプロセスや権利擁護を鑑みて「ちゃんとした事業所かどうか」の判断をしていく力は身につけておく必要があると思いました。


この視察で学んだことを皆さんと一緒に共有し、読んでいただいた方が何かに気づき、自らの地域でその準備を始める機会を考えていけたらと思っています。

 

 (参考:厚生労働省「就労の開始・継続段階の支援における地域連携の実践に関するモデル事業一式」事業報告書令和6年3月)




計画相談支援室ノーマ 松田 




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