一般社団法人福岡・筑紫地区地域福祉支援協会を設立した経緯と目的








当時の置かれていた状況

改めて、私がなぜ、この法人を立ち上げたのかを説明したいと思います。私が、那珂川市(当時は、那珂川町でした)の地を踏んだとき、この地区は、障がい福祉サービス事業所がほとんどなく、行政ですら、那珂川町の予算を地区外の事業所が消費すると嘆く程、地域における障害福祉に関する社会資源に乏しい地区でした。反面、那珂川町は、歴史的にみても障がい者の団体(特に親の会)が行政や社会福祉協議会と協力して活発に活動しており、障がい福祉サービスを補うまでの展開をしていた地域でもありました。ただし、時代背景もあり、親の会を中心とした活動であることが、返ってサービスを利用する側にとって敷居が高く感じてしまうこともあり、その地区に生活する障がいを抱える方々やそのご家族が、気軽に選択したり、ニーズを満たすまでには至っていなかったと言えます。しかし、それまで福祉サービス不毛の地とさえ言われたこの地区が、事業運営を行う法人から熱い視線を浴びることとなり、この約5年間でドッと事業所開設の波が押し寄せ、大人・児童向けの障害福祉サービス事業所の数は、あっという間に数十箇所まで増えることになりました。

 

事業所が増えたことで見えてくる問題

隣接する福岡市は、障がい福祉サービス同士の競争が激しくなっていましたが、そういった法人が次に目をつけたのが、隣接する筑紫地区だったと言えます。様々な業態からなだれ込んできた障がい福祉サービスは、私がいた筑紫地区にも例外なく押し寄せてきたことで、これまでこの地区に存在した福祉サービスを利用してきた方々にとっても、新しい事業所ができたことで、より自分に適した事業所を選択しやすい状況となりました。そのことは、福祉サービスを担う事業所の危機感を煽り、職員の支援の質の向上も期待できました。しかし、私が計画相談を通じて、様々な事業所に足を運ぶなかでは、実際にサービス提供を行っている事業所の職員の障がい福祉に対する知識や技術は、決して評価できるものでもありませんでした。設立ラッシュのため、人材そのものが不足しており、これまで介護や異業種で働いていた職員が、そのまま管理者や支援者となっていたわけです。初めて勤める職員も、見様見真似での対応となってしまい、支援者利用者双方に負担の大きな状況がみられていました。そのため、この地区は、バイザーとなる人材もいない、知識や技術を教える環境もない、という二つの課題をもった地区となり、それぞれの事業所においても、職員が毎年変わってしまうほど、安定しない状況が続いてしました。

 

計画相談を通して見えてきた事業所の苦悩

すべての事業所がそうではありませんが、私が計画相談を通じて知り合った事業所さんの中には、事業運営そのものや、職員の支援技術に関する悩みを抱えているところも多くありました。悩んでいるのは職員だけではなく、事業所や事業所を運営する法人自体も悩みが多かったのです。私自身も、事業所の管理運営しながら、法人運営に携わり、何よりも利用者やそのご家族と直接やりとりを行っていたからこそ、その悩みや苦しみは理解できたつもりです。だからこそ、ときには研修講師として私が招かれ、依頼された事業所で職員研修を行ったりもしました。しかし、そのときに私自身が感じたことは、法人側から研修を提供すること以上に、自ら学びを得たいと思っている人たちに、知識や経験のある同業者に対して、気軽に相談したり、学びを得たりできる環境を提供することの必要性でした。しかし、身近にそういった中堅クラスの支援者が少ないのも事実。であるならば、私たちがいる筑紫地区やその周辺から、そういった経験のある支援者を招き、学びを提供する環境をつくることを考えました。

 

勉強会を運営することの難しさ

そう考えるきっかけとなったもうひとつの理由が、私が懇意にしているコネクトの松尾さんと始めた「筑紫地区就労支援事業所運営連絡会(通称:原点回帰の会)」でした。ちょうどこの時期は、福祉サービスとしての就労支援事業所の設立ラッシュを迎えていました。しかし、事業所の選択肢は増えたものの、利用者を支援力不足から利用者を受け入れきれずに拒否したり、本来の事業運営のあり方からかけ離れたところもあり(悪徳コンサルによる事件も頻発しました)、やはり、就労支援の本質を伝える必要があるのではないか?もう一度、就労支援のあり方、原点に回帰するべきではないか?との話に共感して始めたのが、地域の有数の就労支援事業所による勉強会、情報交換会でした。しかし、それぞれが仕事を持ちながら、勉強会の場を提供し続けることは、担当する人の大きな負担となることから、結果的に、開催回数は徐々に減少していました。必要性は強く感じているのに、その維持の難しさ。やる以上は、続けていくことが大切であることを身に染みて理解していたからこそ、これまでと同じ任意団体ではダメだということを身をもって知っていたのです。

 

計画相談の質も問題となっていた

また、平成27年4月より本格始動となった計画相談も、約3年を迎えてその質が問われるようになっていました。開始当初は、殺到する利用者を捌くことが優先され、「忙しいから」で全てを処理することが可能でしたが、年月がすぎるに連れて、徐々にスピードや処理だけではなく、本来の相談支援、ソーシャルワークの質が問われ始めた時期でもありました。私も含めて、他事業所のクレームを耳にしたり、その内容も同業者として聞きずてならないこともあり、これから先も必要とされる事業として継続させるためには、まずは、自らが立ち上がって学習会を行い、知識や技術を共有しながら、相談支援専門員自らに自浄作用を促していく必要性も感じていました。だからこそ、地域の相談支援の質を上げる上でも、計画相談同士が連携していく必要性を感じていたのです。そういった話を、同業者にしたところ、同じ様な考えを持った仲間が数多くいることを知ることになり、おかげで私の周囲には、同じ想いをもった仲間たちが集まることになりました。今の活動の基礎となった計画相談の自主的勉強会でもある「福岡筑紫地区計画相談支援研究会(通称:チキンの会)」がスタートしたのも、まさにこの頃でした。

 

一般社団法人福岡・筑紫地区地域福祉支援協会の設立

勉強会を重ねていくなかで、どうしても自分たちが所属している法人の方針との乖離を感じる支援者や相談員も増えてきました。自分たちが学ぶことで、支援者として、相談員として、私たちの思いを実現するためには、今、所属している法人に迷惑がかからずに、私たちの考える福祉や支援者としてのあり方を追求するための組織づくりの必要性を感じるようになったのです。重要なのは、今の所属法人を辞めずに、自分の理想を追い求めることができる環境。今の業務の中で必要な知識や技術を学べる環境。そんな環境を提供できる団体を立ち上げる構想が、私たちに芽生えてきたのです。同時に、法人格を持つことは、法人税といった自治体に納めるべき税金を支払うことになります。そのためには、設立法人としての収入が必要となります。そのためには、会費の徴収や研修会参加費の徴収が必要となります。だからこそ、一度はじめた研修会を維持・向上することが求められる環境に身を置くこととなります。先述した研修会を維持することの難しさに対して向き合い、多くの人と協力しながら研修会を運営していく団体の設立。そういった思いと、そこからつながる人々のおかげで、私たち一般社団法人福岡筑紫地区地域福祉支援協会を、満を辞して設立することができました。

 

地域共生社会の実現に向けて

最近、国が示す内容の多くに記載されている「地域共生社会の実現に向けて」ということば。これらを実現するために必要なことは、はっきりと「ソーシャルワーク」と書かれています。ソーシャルワークは、見様見真似でできるものではなく、相談援助技術という専門的な知識や技術、なによりも「ソーシャルワークの価値」を学ぶ必要があります。同時に、その中心となる専門的なマンパワーが必要となるなかで、筑紫地区全体を見渡しても、そこまで多くの人材がいるわけではありません。ましてや、那珂川市ではほぼいないといって良いと思います。地域共生社会を実現するためには、まず、私たちが技術向上を図りながら、マンパワーの確保を行い、さらには、横の繋がり(連携)を自ら求めていく必要があります。そして、より地域に根ざしていく必要があるのです。アウトリーチの必要性が叫ばれて久しいですが、なぜアウトリーチが進まないのかは、単純に専門職としてのマンパワー不足か法人のアウトリーチに対する理解がないかです。本当に地域の相談支援体制を担うためには、ひとりでできる事業はなにひとつないのです。だからこそ、社会福祉法人や大規模なNPO法人が担っているのですが、残念なことに、那珂川市にはそういった経済的にもマンパワー的にも余力のある法人がひとつもありません。

 

最後に

私たちの理念として「福祉は制度ではなく、想いからはじまる。それは、ご本人やご家族だけではなく、私たち支援者であっても。」という思いを掲げさせていただきました。確かに、障がい福祉サービスは利用者のためものであり、そのご家族のためのものです。利用者の思いから始まったのが福祉ですが、同時に私たち支援者も思いからも始まっていると考えます。利用者の思いを知る私たちだからこそできることがあると思っています。そのためには、この地域に、福祉に精通した人たちが数多くいること。そのための団体として、これからも私たちは手弁当で走っていきたいと思います。是非、みなさまのご協力を引き続きお願いします。ゆくゆくは、私たちのいる地区で、本当に必要とされるサービスを提供できるまでになることができれば幸いです。


一般社団法人福岡・筑紫地区地域福祉支援協会のホームページ

コメント