「生きた情報」と「顔の見える関係」
私が地域の「相談支援」の現場ではじめて働いていたのは、今から10年以上も前のことです。それまでは、目も当てられないような旧態依然の精神科病院で医療相談員を行なっていた私は、転職を機に新たな病院の門をたたくこととなりました。そんな中、驚くべきことに、その時に私が配属された部署が、福岡県内で最初に誕生した委託型の「指定相談支援事業所」でした。まさに地域の最前線。ただその時点では、私は、相談支援専門員ではなく、併設された地域活動支援センターⅠ型の社会復帰指導員だったのですが、同じ併設事業所ということもあり、例外なく、最前線の相談支援の現場に3年半勤務することとなったのです。この時の経験が、私にとっての今を作り上げているといっても過言ではありません。誰よりも早くに「相談支援」が経験できたことが、私にとってはまさに奇跡的な出来事でした。しかし今考えると、利用者さんにも当時の先輩や同僚職員に対しても、大変失礼なことをやってきたのだなと、今でも赤面してしまうくらい数多くの失敗をやらかしてきました。同時に、最初の1年は、まさに毎日が苦しみの連続で、私のこれまでの医療・福祉業界のすべてを否定されたかのような日々でした。ただし、その苦しみを味わったからこそ今の私があり、だからこそ今、まさに私を頼りにしてくれている人たちには、私の経験を含めて、ていねいに、理解できるまで付き合うように心がけています。「聞くことは恥ずかしいことではない」と頭の中では理解していても、なかなかそれができないからこそ、私はこうやって、一方的にでも話をする環境を作り続けているのかもしれません。その背景には、きっと私自身のこころの中にネガティブな感情があるからにちがいありません。
私が当時配属されていた、指定相談支援事業所兼地域活動支援センターⅠ型は、その圏域だけでいうと、福岡市以上に広いにも関わらず、人口は7万人という山間部の過疎地域でした。その圏域には、ひとつの精神科病院が精神保健福祉を担っており、まさに、保健所と行政とともに「アウトリーチ」を行なっていくしか手段がない状況でした。たった7万人しかいない人口でも、相談件数はうなぎのぼりで、精神保健福祉を担当している相談支援専門員、社会復帰指導員の配置は合計5名いるにも関わらず、相談は積み上がっていくばかりで、パンパンの状況でした。そんな地域の最前線に、これまでの経験といえば、病院内をうろちょろしていた旧態依然の病院に勤務するいち精神保健福祉士が入ったところで、私に誰が相談するでしょうか?私以外の職員がいれば、相談者はその人を頼りにし、私しかいなければ、「なら、大丈夫です」と帰っていく。そんな毎日を過ごしていました。その当時、年齢的には30歳代に突入し、人生経験だけは積み上げてきたつもりでしたが、そんな私の思いをよそに、毎日が「役立たず」と自分を認めるしかない毎日を過ごしてきたのです。その時の自分になかったものはなんだったのか?今でも、時々思い返しながら、自分の立ち位置を確認するようにしています。当時の私に足りなかったこと、それは「生きた情報」と「顔の見える社会資源との関係(つながり)」です。もし、私が歪んだ精神状態となって、一歩も事業所から出ないような状況であったならば、今の私はきっといなかったと思います。今、思い出すだけでも、悔しさが込み上げてくることもたくさんありましたが、だからこそ、自分のもつ「限界」を感じながら、それでも「ここにい続けること」の重要性を身をもって理解することができたのだと思います。そして、これらの経験こそが、私に「地域にいることこそが、本当のソーシャルワークだ」と、それ以降、一切病院には戻らず、精神保健福祉士として、相談支援専門員として勤務している原動力となっているのです。それ以降の私は、地域に身を置くこととなりましたが、たくさんの事業所の代表や職員と出会うことができました。その顔の見えるつながりこそが「信頼関係」を生み、「相互協力」が可能となったことは言うまでもありません。そうなった後の私の相談支援は、大きく質が向上したことは言うまでもありません。そして、今でもその考えは、常に私のなかにあり続けています。地域の相談支援として大切なことは、「生きた情報」と「顔の見える社会資源との関係(つながり)」なのです。病院や事業所の中にいる以上に、地域に出て、地域のことを知り、鮮度の高い情報を集めてくる。そのためには、運営法人の協力も必要です。いちいち外出許可がいる状況では、地域情報は集まってきません。目的がなくても地域に出て行き、関係性を構築すること。公園でコーヒーを飲んでいたって、たくさんの気づきがあります。もし、相談支援専門員が楽を選択したのであれば、3年、5年後には、真面目に取り組んできた相談支援専門員と大きく差が出てくることでしょう。地域から、「あ!○○事業所の○○さんね!」と名前が出てくる相談支援専門員になれるかが、地域で求められる相談支援専門員の鍵ですし、そういった相談支援専門員がみなさんの法人に所属していることは、その法人全体の宝になることでしょう。それだけは、相談支援専門員として、ソーシャルワーカーとしてはっきりいえます。
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